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TGCVとは

TGCV疾患概要

1. 概要

中性脂肪蓄積心筋血管症(Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy, TGCV)は、2008年に我が国の心臓移植待機症例から見出された新規疾患概念である。2009年から厚生労働省難治性疾患克服研究事業として研究が進められてきた。心筋細胞、血管平滑筋細胞、内皮細胞、骨格筋細胞、多形核白血球、腎尿細管上皮細胞、膵島細胞等に中性脂肪 (TG) が蓄積し、心不全、心筋症、不整脈、冠動脈疾患、骨格筋ミオパチー、慢性腎臓病、耐糖能障害などを呈する。罹患臓器・細胞の主たるエネルギー源である長鎖脂肪酸 (Long chain fatty acids, LCFA) の細胞内代謝異常の結果、蓄積するTGによる脂肪毒性 (Lipotoxicity) とLCFAが供給されないためのエネルギー不全 (Energy failure) を生じると考えられている。TGが異所的に細胞内に蓄積することが特徴で、血清TG値や体格指数 (Body mass index) などは、診断的価値がない。本症は、2019年に欧州最大の希少疾患ネットワークOrphanetに独立した疾患単位として登録された(ORPHA code: 565612)。

2. 原因

2020年12月までの累積診断数は、336例である。内、10例では細胞内TG分解の必須酵素である、adipose triglyceride lipase (ATGL) をコードするPNPLA2遺伝子のホモ型変異が報告されている。残りの326例では遺伝的原因は明らかでない。前者を原発性TGCV、後者を特発性TGCVと分類している。原発性TGCV、特発性TGCVいずれにおいても発症の機構、病態進展機構は未解明である。

3. 症状

中性脂肪蓄積心筋血管症 (TGCV)の原因

生来健康で、青年期から壮年期に心症状等が出現する。発症後、長期の療養が必要で、最近行われたTGCV患者会のアンケート調査(35名の患者からの回答)によると平均療養期間は10年(最短7か月~最長 27年)である。進行すると動悸、息切れ、労作時呼吸困難、易疲労感、浮腫、咳、体重増加、頻尿(特に夜間)などの心不全症状を訴える。重症例では安静時呼吸困難、起座呼吸などを呈する。本症に認められる冠動脈病変は、びまん性であることが特徴であり、狭心症は労作時のみならず安静時や夜間にも生じる。ニトログリセリン錠、亜硝酸剤が著効しない場合がある。

 また、不整脈による脈の欠滞、動悸、意識消失発作などを来す場合がある。心肺停止の既往を持つものが多く、突然死例の報告もある。Energy failureに関連する症状として、全身倦怠感、寒冷耐性の低下、空腹時の易疲労感を訴える場合がある。その他の臓器障害として耐糖能異常、慢性腎臓病は高頻度である。原発性TGCVでは骨格筋ミオパチー(軽症~重症)を合併する。感音性難聴を持つ症例も報告されている。上述の如くTGCVは、最近、発見された病態であり、認知度が低いため診断遅延、別診断、未診断の問題が存在する。2013年-2018年のレジストリ調査では、原発性、特発性TGCV発症から登録までの期間は、それぞれ18年、9年であった。

4. 治療法

心不全、狭心症、不整脈、骨格筋ミオパチー等に対する内科的或いは外科的な標準治療を受けているが、治療抵抗性である。 大阪大学医学部附属病院でアカデミア開発された治療薬CNT-01(トリカプリンを主成分)は、日本医療研究開発機構の難治性疾患実用化研究事業として医師主導の開発が行われてきた。TGCVモデル動物であるATGLノックアウトマウスの心臓中性脂肪代謝改善、心機能改善、寿命延長などPreclinical proof of conceptを得たあと、健常人単回投与の第I相試験、特発性TGCV患者を対象とする第I/IIa相試験、多施設共同のプラセボ対照二重盲検群間比較試験(第IIa相)の結果、並びにトリカプリンを含有する食品成分を用いた臨床研究により、細胞内TG代謝の改善等が認められている。その結果、CNT-01は、2020年6月19日、厚生労働省より先駆け審査指定制度対象品目に指定された(薬生薬審発0619第1号)。現在、国内製薬企業が次相治験の準備をしている。

5. 予後

これまで診断された患者の予後は厳しい。336例中、58例が既に死亡している。死亡例のほとんどは心臓死或いは突然死である。透析合併TGCV例では、複合心血管イベントの発症が1年間で60%に及ぶこと、また第2世代薬剤溶出性ステントを用いた冠動脈インターベンション衝後のステント内再狭窄率が 高いことが報告されている。

TGCV患者数・死亡数(累積)の推移