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中性脂肪蓄積心筋血管症の診断基準

診断基準

中性脂肪蓄積心筋血管症の診断基準

厚生労働省難治性疾患政策研究事業 中性脂肪蓄積心筋血管症研究班  中性脂肪蓄積心筋血管症 (TGCV) 診断基準 2020年度版

中性脂肪蓄積心筋血管症の診断基準、必須項目、大項目、参考所見


脚注

    (1)組織内の脂肪蓄積はパラフィン切片ではなく、凍結切片やオスミウム処理で脂質の溶出を防止する必要がある。判定困難な場合は、TGCV研究班で解析することが可能である。
    (2)有意狭窄の有無は考慮しない。
    (3)末梢血スメア標本のメイギムザ染色等により顆粒球のほとんどすべてに明瞭な空胞が存在する。スメア標本や写真の送付で、TGCV研究班で判断することが可能である。
    (4)参考所見 研究班のこれまでの剖検心解析、小規模コホート研究から、因果関係は不明だが糖尿病例や透析例に一定の頻度でTGCV患者が存在することが明らかになっている。

○ BMIPP心筋シンチグラフィ、心臓CT、心臓MRスペクトロスコピーの撮像プロトコールが必要な場合は、研究班までご連絡下さい。
○ 原発性TGCV/特発性TGCVの分類アルゴリズムは別添をご参照ください。
○ 診断困難例については、研究班までご連絡ください。

123I-BMIPP洗い出し率算出の注意点

123I-BMIPP心筋SPECTは、TGCVの病態の根幹である中性脂肪分解障害を、心筋を標的にin vivoで評価できる極めて重要な核医学検査である。 洗い出し率(Washout Rate, WR)は、TGCV診断基準2020において、必須項目の一つとして位置づけられ、患者の9割において診断根拠となっている (Ann Nucl Cardiol. 2020; 6: 99-104)。

算出の原理

長鎖脂肪酸プローブである123I-BMIPPは、心臓及び周辺組織(脂肪組織、骨格筋組織、肝臓等)に取り込まれ細胞・組織特異的に代謝を受けると考えられる。心臓においては、主としてCD36を介して心筋に取り込まれ、細胞内中性脂肪(TG)プールに存在する。ATGL等の細胞内TG分解酵素(リパーゼ)の作用で加水分解を受けて、ミトコンドリアで酸化、代謝を受ける。TGCVにおける心筋TG分解障害が、123I-BMIPP WR の低下として反映される。

WRの算出(定量評価)のために: SPECT撮像

• 検査は絶食で施行する(食事中の糖・脂肪の検査への影響を避ける)。
• 検査時の体位・肢位、収集条件、画像再構成条件は早期像と後期像で同一とする。
• 撮像 早期像収集:投与20分後、後期像収集:投与180-210分後から開始。

WRの算出(定量評価)のために: WR計算

TGCV診断基準2020におけるWRカットオフ10%未満は、123I-BMIPP単剤投与のAnger型カメラで 収集されたSPECT装置画像(左室心筋全体のHRV-Sでの計算値)から決定されている。
• 2核種(BMIPP+TI)同時検査の場合も大多数で診断が可能である。ただし、2核種による クロストーク(相互干渉)は避けられず、WRカットオフ10%近傍のボーダーラインの症例については、 BMIPP単核種での再検査が望ましい。

鑑別診断

• 心筋虚血:TGCVでも非TGCVでもWRが高値をとる。TGCV診断においては虚血の急性期での評価は避ける。
• CD36発現低下状態(遺伝的CD36欠損症、冬眠心筋、心筋梗塞や心筋壊死、線維化等)では、早期像において123I-BMIPP取り込みが著減する。このような部位でのWRは見かけ上、極度に低下し左室心筋全体のWR算出値に影響を及ぼすため注意が必要である。
• 診断困難例は、研究班 tgrc@cnt-osaka.com にご連絡ください。

TGCVの分類・鑑別診断

TGCV確定診断例(Definite TGCV)の分類アルゴリズム

TGCV確定診断例(Definite TGCV)の分類アルゴリズム

※典型的Jordans異常:末梢血スメア標本のメイギムザ染色等により顆粒球のほとんどすべて(90%以上)に大きさ 1μm以上の明瞭な 空胞が複数個存在する。スメア標本や写真の送付で、TGCV研究班で判断することも可能である。

鑑別診断

  1. 心不全・冠動脈疾患を呈する循環器疾患
  2. 肥大型心筋症、拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、不整脈源性右室心筋症以下の心筋疾患等、特に蓄積性代謝疾患との鑑別が必要である。①アルコール性心疾患、②神経・筋疾患に伴う心筋疾患、③栄養性心疾患、④代謝性疾患に伴う心筋疾患(Fabry病、Pompe病、Danon病、ミトコンドリア病、CD36欠損症など)⑤カルニチン欠乏症(薬剤性或いは透析関連)、⑥糖尿病性心筋症、⑦心外膜脂肪の蓄積
  3. Jordans異常を呈する他の疾患
  4. Neutral lipid storage disease with ichthyosis (NLSD-I)
    カルニチンパルミトイルアシルトランスフェラーゼ欠損症
    Neutral lipid storage disease with myopathy (NLSD-M)

遺伝学的検査

上述の如く、ほとんど症例で遺伝的原因は不明である。原発性TGCVの場合は、典型的Jordans異常が必発であり、遺伝子解析を必要としない。

原発性TGCVと特発性TGCVの比較



原発性TGCVと特発性TGCVの比較

※原発性TGCVは、欧州等で報告されている骨格筋ミオパチーを主徴とする、  Neutral lipid storage disease with myopathyとclinical continuumである。