Loading

中性脂肪蓄積心筋血管症の診断基準

診断基準

中性脂肪蓄積心筋血管症の診断基準

厚生労働省難治性疾患政策研究事業 中性脂肪蓄積心筋血管症研究班  中性脂肪蓄積心筋血管症 (TGCV) 診断基準

中性脂肪蓄積心筋血管症の診断基準、必須項目、大項目、確定診断、疑診


脚注

    (1)BMIPP心筋シンチグラフィの撮像、洗い出し率算出は下記を参照。
    (2)トリカプリン栄養療法、トリスデカノイン製剤において増加することが知られており、診断には摂取/投与以前のデータを採用すること。
    (3)パラフィン切片においてペリリピン2の免疫染色による脂肪蓄積面積が50%以上を陽性とする。判定困難な場合は、TGCV研究班で解析することが可能である。
    (4)造影前の心臓CTにおいて「貫壁性の低CT値(35 Hounsfield unit 未満)を心筋全体に認めるもの」を陽性とする。
    (5)心筋中性脂肪含量4.5%以上を陽性とする。
    (6)有意狭窄の有無は考慮しない。
    (7)冠攣縮誘発試験によるびまん性冠攣縮は本項目に合致する。
    (8)末梢血スメア標本のメイギムザ染色により、顆粒球の90%以上に大きさ1µm以上の明瞭な空胞が複数個存在する。スメア標本や写真の送付で、TGCV研究班で判断することも可能である。

○ BMIPP心筋シンチグラフィ、心臓CT、心臓MRスペクトロスコピーの撮像プロトコールが必要な場合は、研究班までご連絡下さい。
○ 原発性TGCV/特発性TGCVの分類アルゴリズムは別添をご参照ください。
○ 診断困難例については、研究班までご連絡ください。

123I-BMIPP心筋洗い出し率を用いたTGCV診断

123I-BMIPP SPECTは、TGCVの病態の根幹である中性脂肪分解障害を、心筋を標的に評価する核医学検査である。123I-BMIPP洗い出し率(Washout Rate, WR)の10%未満は、TGCV診断基準において必須項目の筆頭に位置づけられる(TGCV研究班が策定した診断基準は日本循環器学会日本心不全学会合同心不全診療ガイドライン2025年改訂版に収載)。

診断原理(下図)

長鎖脂肪酸は成人心臓の最も重要なエネルギー産生基質である。長鎖脂肪酸の放射性アナログである123I-BMIPPは、心臓、肝臓、骨格筋、脂肪組織等に取り込まれ、細胞・組織特異的に代謝を受ける。心臓においては、長鎖脂肪酸トランスポーターであるCD36を介して心筋細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞等に取り込まれた後、再エステル化を受けてBMIPP-TGとなる。細胞内TG分解の律速段階であるadipose triglyceride lipase (ATGL) 等の作用による加水分解を受けたのちに、ミトコンドリア他の細胞内小器官において酸化され、代謝される。TGCVにおける細胞内TG分解障害が、123I-BMIPP WR の著減として反映される。

BMIPPの構造、シンチグラム撮像プロトコル、代表的画像、細胞内代謝とTGCV診断原理

WRの算出(定量評価)のための注意事項:

TGCV診断基準におけるWRカットオフ10%未満は、123I-BMIPP単剤投与のAnger型カメラで収集されたSPECT画像ポーラーマップ(左室心筋全体のSPECT画像解析ソフトウェア[HRV-S]での計算値)を用いて、WR算出は時間減衰補正を行ったデータから決定している。

定量評価のためプロトコルは遵守する必要があり、以下に注意事項を列挙する。

SPECT撮像の実施条件と実際:
  • BMIPP単核種でTGCV診断を行う(2核種同時収集データの取り扱いは後述)。
  • TGCV診断を目的としたWRの算出は、虚血の急性期に実施した検査データを使用しない。血行再建からは3か月以上空けて実施したデータを用いる。理由:虚血急性期には一過性のBMIPP-WRの変動(増加や減少)が報告されている。
  • 検査は絶食(少なくとも6時間以上)で施行する。理由:食事中の糖・脂肪の検査への影響を避ける。
  • 検査時の体位・肢位、収集条件、画像再構成条件は早期像と後期像で同一とする。同一症例の経時的変化を比較する場合も撮像条件を同一とする。
  • 撮像 早期像収集:投与20分後、後期像収集:投与180-210分後から開始。理由:後期像撮像の時間のずれは、BMIPP-WRの定量評価に影響を与える。
  • 時間減衰補正は必ず実施する。理由:123Iの物理的半減期は、13.2時間であり、後期像撮像までの間に放射活性は減衰する。時間減衰補正をしない値は、生物学的な洗い出し(真の洗い出し)率より高値を示し誤診の原因となる。
  • WR算出は、必ず「左室心筋全体のカウントから算出する方法(総カウント法或いは平均カウント法)」を用いる。理由: 心筋梗塞等のため早期像で取り込み欠損がある症例での誤診を回避できる。
2核種(123I-BMIPP+201TI-TlCl) 同時収集によるデータは参考所見にとどめる。理由は以下の如くである。
  • 123I-BMIPP+201TI-TlCl同時収集検査は、「虚血の有無」の評価・診断目的で実施されることから虚血急性期に関連した偽陽性、偽陰性を生じうる。従って、TGCVを疑って検査を実施する場合は、上述の条件で実施、診断すること。尚、同時収集のBMIPP-WRの計算値に与える影響は補正可能で参考値としての評価は可能である。
Planar像によるデータは、参考所見にとどめる。理由は以下の2点である。
  • 診断基準のカットオフ値は、SPECT像により決定されている。
  • Planar像の場合は、心臓以外の組織(肝臓、脂肪組織、骨格筋等)による取り込みや洗い出しから影響を受けている。
ボーダーライン症例について
  • 同一患者において、BMIPP-WRは、数パーセントは変動することが観察されている。カットオフ値 10%の近傍の症例では、数か月後に再検、判断することが望ましい。

BMIPP-WRのTGCV診断における特異性について

TGCVとその他の病態における脂質代謝障害点とBMIPP-WRの比較

TGCVとそれ以外の病態との比較を示す。心血管細胞のTGの含量は、1)基質である脂肪酸、グリセロールの供給、2)TG合成活性、3)TG分解活性、4)遊離された脂肪酸の代謝などで決定されており、病態それぞれにおいて、障害される代謝ポイントが異なる。「細胞内TG分解lipolysisの低下・欠損」が、TGCVの病態の根幹である。所謂、Cardiometabolic diseasesの概念として知られる2型糖尿病、メタボリック症候群等における細胞内TG含量の増加は、細胞内TG合成の基質である脂肪酸の供給の増加が原因と考えられている。

上図に、TGCVとその他の病態とのBMIPP-WRの比較を示す。原発性、特発性TGCVともBMIPP-WRが著減しており特異性は極めて高い。

参考文献

  1. Hirano K, Okamura S, Sugimura K, et al. Long-term survival and durable recovery of heart failure in patients with triglyceride deposit cardiomyovasculopathy. Nat Cardiovasc Res, 2025; 4: 266-274.
  2. Kitai T, Kohsaka S, Kato T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circ J. 2025; 89: 1278-1444.
  3. Mori T, Hirano K, Miyauchi H, et al. Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy: A new class of cardiovascular disease. J Cardiol 2026; Apr 13: S0914-5087(26)00075-4.
  4. Bornstein MR, Tian R, Arany Z. Human cardiac metabolism. Cell Metabolism 2024; 36: 1456-1481.
  5. Tamaki N and Yoshinaga K. Novel iodinated tracers, MIBG and BMIPP, for nuclear cardiology. J Nucl Cardiol 2011; 18: 135-143.
  6. Hirano K, Ikeda Y, Sugimura K, Sakata Y. Cardiomyocyte steatosis and defective washout of iodine-123-b-methyl iodophenyl-pentadecanoic acid in genetic deficiency of adipose triglyceride lipase. Eur Heart J 2015; 36: 580.
  7. Hirano K, Miyauchi H, Nakajima K. Diagnostic principle with washout rate of 123I-β-methyl-p-iodophenyl pentadecanoic acid for triglyceride deposit cardiomyovasculopathy. Ann Nucl Cardiol 2025;11(1):39-41.
  8. Hirano K, Kodama K, Miyauchi H, et al. Carnitine administration and 123I-BMIPP washout rate in hemodialysis patients with triglyceride deposit cardiomyovasculopathy. Ann Nucl Cardiol 2024; 10: 38-42.
  9. Nakajima K, Miyauchi H, Hirano K, et al. Practice recommendation for measuring washout rates in 123I-BMIPP fatty acid images. Ann Nucl Med 2023; 38: 1-8.
  10. Miyauchi H, Ono R, Iimori T, et al. Modified Algorithm Using Total Count for Calculating Myocardial Washout Rate in Single-Photon Emission Computerized Tomography. Ann Nucl Cardiol 2023; 9: 10-25.
  11. Hirano K, Higashi M, Miyauchi H, et al. Increased Washout of 123IBMIPP in Triglyceride Deposit Cardiomyovasculopathy (TGCV) with Severe Coronary Stenosis -A Pitfall of Diagnosis for TGCV-. Ann Nucl Cardiol 2019; 5:47-49.
  12. Miyauchi H, Hirano K, Nakano Y, et al. 123I-BMIPP scintigraphy shows that CNT-01(tricaprin) improves myocardial lipolysis in patients with idiopathic triglyceride deposit cardiomyovasculopathy: First randomized controlled, exploratory trial for TGCV. Ann Nucl Cardiol 2022; 8(1):67-75.
  13. Miyauchi H, Iimori T, Hoshi K, et al. Correlation perspectives for the diagnosis of idiopathic triglyceride deposit cardiomyovasculopathy. Ann Nucl Cardiol 2020; 6(1):33-38.
  14. Nakajima K, Makida S, Okamura M, Kawashiri M, Shibutani T. Energy spectrum-based correction of washout rates in dual-isotope 123I-BMIPP/201Tl imaging. Ann Nucl Med 2026 2026 May 30. doi: 10.1007/s12149-026-02235-8. Online ahead of print.

TGCVの分類・鑑別診断

TGCV確定診断例(Definite TGCV)の分類アルゴリズム

TGCV確定診断例(Definite TGCV)の分類アルゴリズム

※典型的Jordans異常:末梢血スメア標本のメイギムザ染色等により顆粒球のほとんどすべて(90%以上)に大きさ 1μm以上の明瞭な 空胞が複数個存在する。スメア標本や写真の送付で、TGCV研究班で判断することも可能である。

鑑別診断

  1. 心不全・冠動脈疾患を呈する循環器疾患
  2. 肥大型心筋症、拡張型心筋症、拡張相肥大型心筋症、不整脈源性右室心筋症以下の心筋疾患等、特に蓄積性代謝疾患との鑑別が必要である。①アルコール性心疾患、②神経・筋疾患に伴う心筋疾患、③栄養性心疾患、④代謝性疾患に伴う心筋疾患(Fabry病、Pompe病、Danon病、ミトコンドリア病、CD36欠損症など)⑤カルニチン欠乏症(薬剤性或いは透析関連)、⑥糖尿病性心筋症、⑦心外膜脂肪の蓄積
  3. Jordans異常を呈する他の疾患
  4. Neutral lipid storage disease with ichthyosis (NLSD-I)
    カルニチンパルミトイルアシルトランスフェラーゼ欠損症
    Neutral lipid storage disease with myopathy (NLSD-M)

遺伝学的検査

上述の如く、ほとんど症例で遺伝的原因は不明である。原発性TGCVの場合は、典型的Jordans異常が必発であり、遺伝子解析を必要としない。

原発性TGCVと特発性TGCVの比較



原発性TGCVと特発性TGCVの比較

※原発性TGCVは、欧州等で報告されている骨格筋ミオパチーを主徴とする、  Neutral lipid storage disease with myopathyとclinical continuumである。